営業をしないことの意義
繰り返しになりますが、yui では介護事業者に対する営業活動は一切行っていません。
居宅介護支援事業者、あるいは入所系施設などへ実際に出向いて「ウチの訪問歯科をぜひ使ってください」などとアピールしたり資料をお渡しして訪問歯科を案内したりするようなPR活動は行わないのです。
これは、これまで記事で書いた通り、現在はこちらから能動的に需要を喚起せずともケアマネさんからの紹介やホームページからの依頼が十分あるという理由からでもありますし、私ひとりで運営しているため物理的に営業活動を行う余裕がないという理由もあります。
そしてこういった理由とは別に、営業をしないこと自体が非常に大きなメリットを生んでいると私は思っています。
そのメリットは2つあります。
まずひとつは、
「請われて往診する」状況を作れること。
営業活動をしていないということは、事業者さんからの訪問歯科に関する問い合わせやご依頼のきっかけは、ホームページや人づてなどの情報に触れてということになります。
いずれにしても事業者さん側からの能動的なアクセスをきっかけに往診が始まり、常に「請われて往診する」形になるのです。
営業をして(こちらからお願いをして)受診につなげていくプロセスと圧倒的に異なるのはそこなのです。
私はここに、天と地ほどの違いがあると思っています。
なぜなら、
その事業者とのその後の関係性を作るうえでもそのことが大いに影響するからです。
こちらからお願いして往診させてもらう立場
相手から請われて往診におうかがいする立場
このふたつが違うのは当然だと思います。
訪問診療では訪問先の施設さんであったり、在宅ではケアマネさんであったりといった介護事業者さんに協力をいただく場面は少なくありません。
往診に協力をお願いするのに、どちらの立場の方にお願いしやすいかは明らかです。
特に、入所系施設に往診する場合には、診療場所や診療日時、治療費の集金方法などの訪問診療を効率的に行うために柔軟に対応いただきたい事柄がいくつもありますが、こちらからお願いして往診させてもらう立場である場合、なかなかこちら側の要望を押しづらく施設側の意向に一方的に従属せざるを得ないといったことも起こりがちです。
もちろん請われて往診する場合であっても、相手の都合を斟酌することは忘れてはいけませんが、色々なことをお願いしやすい状況を作れることは確かです。弊社がかかわっているどの訪問先施設ともいい関係を保ちつつスムーズな訪問診療を続けていられるのは、そのことが大きく影響していると私は考えています。
在宅ではなく入所系施設への訪問が多い場合は特に、いかに良好な関係の訪問先施設をたくさん持つかということが重要です。そういう観点から、「請われて往診する」状況をできるだけ作ることは意義が大きいことなのです。
そしてもうひとつは、
受診依頼者の心理に、不協和を解消しようとする意識が生まれること。
どういうことか?
こちらから営業活動をしないということは、ご依頼やお問い合わせをしてこられる方は必然的にネットで検索をしたり、ひとづてに聞いたりする能動的なアクセスによって訪問歯科を探します。
つまりは「労力(コスト)」を使って探してこられる、、、そう、”がんばって見つけた” のです。
そういうときを想像してみてください。
たとえばです
あなたが大好きな魚釣りに行くとします。
朝早く起きて、遠くの海まで車を飛ばします。
この日のために釣り竿は新調し、昨日はエサも準備し、もしかすると子供の世話もせず遊びに出ることを奥さんになじられたかもしれませんね。でもいいのです、美味しい魚が釣れれば。
そして、1日釣り糸を垂れてようやく1匹魚が釣れました。ところが、家に帰って食べてみると・・・
「え、思うほど美味しくない!」
・お金や労力というコストを払った
・得られた利益がどうやら少ない
こういう矛盾した状況があるとき、あなたはその不快な矛盾を自分の中でどう処理するでしょう?
ひとはこういった矛盾に対して、片方の事実を正当化したり都合よく辻褄を合わせたりして、不安や不快(不協和)を解消しようとする傾向があります。
つまりは、こういう状況に直面したあなたは「いや、身はけっこう甘みがあった」とか、「なかなか食べられる魚じゃないよ」とか、無理にでも辻褄を合わせようと・・・いや、ポジティブに受け止めようとするんじゃないでしょうか?
こういう人間の心理の揺れは社会心理学用語で「認知的不協和」と言います。
このセオリーはマーケティングをはじめとしたビジネスシーンで広く応用されていますが、私が思う営業しないメリットもここにあると考えます。
そうです、労力を使ってがんばって見つけてくれたひとは、(多少不本意なことがあったとしても)サービスに対してある程度ポジティブに受け止めてくれるものです。
もちろん対応が相当ポンコツであればそうはうまくはいかないと思いますが、ある程度のアドバンテージは得られるものだと私は考えてきました。
営業をしないことのメリットを書きました。
いやいやそのメリットは分かった、じゃあ営業しないでどうやって集客するの?という声もありますよね。
yui のスタイルはこうです → 在宅を取れる医院は強い。
患者さま獲得における yui の訴求スタイルは、私が知る周囲の訪問歯科に比べても格段に受動的で消極的と言えると思います。
もちろん営業活動をしないことが絶対的な正解だとは思わないですが、そもそも医療には営業という行為自体馴染まないという考え方も一理あると思いますし、ここに書いたような営業しないことのメリットも私は大きいものだと常々感じています。