訪問歯科用ポータブルユニット(かれんとデイジー)
目次
かれんとデイジー
メルヘンな標題ですが、訪問歯科用のポータブルユニットのお話です。
訪問歯科用のポータブルユニット、これがないと訪問先でのできる治療がかなり制限されてしまうので、訪問歯科には必須の機材と言ってもいいでしょう。
yui の提携医院の訪問歯科では、過去にオサダ電機工業のデイジー、日本アイエスケイ(旧キング工業)のかれんEZ、ナカニシの VIVA Q (バキュームユニットのみの製品)を使用してきました。
最近ではモリタ製作所も2020年に Portacube+ というユニットを出していますが、ポータブルユニットではこれらの製品が主なところかと思います。
以前からほとんどの提携医院で長らくオサダのユニットを使ってきたので、私はほぼオサダのユニットにしか触れたことがありませんでした。
オサダの、デイジーの前のそのまた前の世代のユニットから知る私としては、デイジーはかなりコンパクトにまとめられていて完成度は高いという印象でした。
ですが、比較的最近になってかれんも使わせていただくようになりました。
以前からその使用感の良さは色々なところから耳に入っており、「これ一択だよ」とおっしゃる知り合いの先生もいましたが、使ってみると噂に違わず素晴らしい製品だと感じています。
ということで、かれんとデイジーであれば私は多くを語れます。
シェアも高いと思われるこの2製品、日本アイエスケイ(旧キング工業)のかれんEZとオサダ電機工業のデイジーとをいくつかの視点から比較する形でレビュー書いてみたいと思います。
デイジーについて、2024年10月時点で最新の機種はデイジー2(デイジーからマイナーチェンジされ、大きくは変わっていませんがいくつか改良が加わっています)ですが、このレビューでの対象機種は前機種のデイジーです。
重さ
業界最軽量と謳う、その重さは8.3キロ。
確かに、軽い軽いと聞いていたナカニシのユニット VIVA ace でさえ8.6キロ、モリタ製作所の Portacube+ でも9.8キロなので、頭ひとつ上を行く感じです。
かなり軽く、女性でも無理なく持ち運べると感じるレベルです。
持ち運び用の肩掛けベルトも付属していますが、持ち手を持って運んだ方が早いのでまったく使っていません(邪魔なので取ってしまいました)。
デイジーは14.5キロです。
この点についてはかなりかれんに優位性があると言えます。
在宅の訪問先で、階段のないマンションがたまにありますが、14.5キロを持って登るのはさすがに男性の私でもしんどいです。
特に私は、ある時期までずっとデイジーしか知らなかったこともあり、初めてかれんを持ったときの衝撃はかなり大きかったです。
収納時の形状
かれんはコンパクトに収納することができ、収納した状態だと立方体の四角いBOXになります。
四角いBOX状になるのは Portacube+ も同様ですし、 VIVA ace もほぼ四角い形になりますが、かれんの場合は上部が完全にフラットになるので物を置くこともできます。
四角いBOX形状で上部がフラットであることの何がいいかというと、
車に積むときに荷物がたくさんあったり、車の荷台が狭い場合でも積載しやすく、かつユニットの上に荷物を置けるためスペースを有効に使うことができるのです。
地味なところですが、よく考えられているなと思いました。
デイジーの収納形状は縦に長い形です。
横幅は取らないですが、上に物を置くことはできません。
縦長の形状であることのもうひとつのデメリットは「傾けやすいこと」
それの何が問題かというと、ユニットの車への積み下ろしなどの際につい傾けてしまったりするのですが、タンクに汚水が入ったままで傾けてしまうと本体内部への汚水が逆流したり、タンクの蓋の締め込みが甘いと汚水が漏れたりといったリスクがあることです。
その都度汚水を捨てるようにしたり、傾けないように注意したりすればいいのでしょうが・・・。
排水タンクの脱着
排水タンクの脱着のしやすさは、ユニットの使用頻度が多いほど作業性に大きくかかわってきます。
排水タンクの容量は少ないですが、構造がシンプルなため引っ張るだけで外すことができる構造で、装着も押し込むだけですので、脱着が非常に簡単です。
脱着時に汚水が漏れたりすることもないので、衛生面でもGOODです。
デイジーの排水タンクの容量が1100mlであることを考えると、かれんEZの排水タンクは300mlとかなり少なめです。
必然的に排水を捨てる頻度が増えることになり、かれんを使う前はそこが心配でしたが、排水タンクの脱着が圧倒的に簡単なので、逆にこのコンパクトさが扱いやすく、心配は杞憂に終わりました。
スポッと取り外し、そのまま洗面所へ持っていけるのは圧倒的に楽です
ちなみに排水タンクに何も入っていない状態で、連続でスケーリングを行うと、
(設定した水量にもよると思いますが)全顎歯が残っている方ばかりだとして、満水になるまで3名持つか持たないかというところです。
容量は大きいですが、構造がやや複雑で脱着が面倒です。
写真のようにタンクに本体側と吸引側の2つのホースが接続されています。
タンクの蓋は回せばタンク本体分離できるので、このホースを外さずに(タンク本体側を回して)タンクを外すこともできるのですが、蓋の裏側の汚水が床にポタポタ落ちてしまうので、下にティッシュなどを敷いておかなければならず面倒です。
私の場合は、ホースは両方外したうえでタンクの蓋を外し写真のように床に置いて、タンクの汚水を捨てに行きます。
ホースを外してタンクの蓋を裏向きに床に置いたとしても、結局蓋についた汚水は床にたれてしまうのでティッシュは敷いています。
デイジーの排水タンク容量は大きいので、排水を捨てる頻度は少なくなりますが、この排水タンクの脱着の面倒さをどう捉えるかですね。
yui のかかわる訪問歯科では患者さまの人数も多く処置やスケーリングは多く、デイジーであっても1日の訪問中に何度か汚水を捨てるので、個人的には捨てる頻度は多くなったとしてもかれんの方が圧倒的に楽だと感じます。
ただ、処置やスケーリングが少なく、1日の訪問で訪問先で汚水を捨てることがほとんどなさそうだと想定されるのであれば排水タンクの脱着の不便さは許容できるかもしれませんね。
メンテナンス性
かれんは形状がシンプルなので清掃性がいいです。
複雑な形状の個所が少ないので、拭いたりするのに拭き残しが出にくくとても楽です。
そしてもっとも清掃がたいへんな排水タンクの清掃性についても、デイジーに比べると優位性があるように思います。
多少拭きにくい部分はありますが、本体自体が小さいこともあり清掃はしやすいです。
何より、小さくてユニット本体からの取り外しが簡単なため、洗面所などへ持って行っての清掃がしやすいのでストレスがありません。
材質や色的にも汚れの付きやすさを感じません。
本体を含めて全体的に複雑な形状の個所が多く、清掃性はあまり良くありません。
排水タンクもやや複雑な構造なので、清掃が大変です。
排水タンクを清掃するのに、2か所のホースを外す必要があります。
デイジーの満水感知はセンサーで電気的に行う仕組みなので、センサーや電極のような細かい部品も付いていて清掃しにくいです。
さらに、材質や色のせいかもしれませんが、細かい箇所に黒ずんだ汚れが付きやすいです。
ホースを接続する穴の個所について、これはなぜか取り外しができるようになっていて、そのせいで隙間に黒ずみ汚れがたまり、定期的に外して清掃しなければなりません。
最新機種のデイジー2では改善が図られていて、ホースを接続する穴の部分は金属製になっていて取り外しできず、電線などはそこに埋め込まれた構造になっています(とはいえ、やはり2か所のホースを外す必要があるのは変わりませんし、清掃性が大幅に改善された印象はないのかなと個人的には思います)
各種センサー
ハンドピース類を置いておくホルダーについて、
かれんではホルダーにセンサーが付いていないので、スケーラーやハンドピースがセットされてるかどうかは感知されません。
つまり、何かの拍子にフットスイッチを踏んでしまうと、ハンドピースやスケーラーが動作してしまうのでユニットの周りに水しぶきが飛び散ることになります。
スタッフが気を付けていても、患者さんが踏んでしまうこともあります。
被害を最小化するため、100均で買ってきた指サックをハンドピースやスケーラーにかぶせてみたりしています。
排水タンクの満水を感知するセンサーは電気的な制御ではなく、アナログな仕組みになっています。
デメリットは、満水に気づきにくいこと。
満水でバキュームが停止するときは、小さく「ポコッ」という音がしますが、音が小さくバキュームも作動しているままなので分かりにくく、実際には吸引できていないことで気づくということも少なくありません。
ですので気づいたときには患者さまの口の中に水がたまってしまっていて、慌てて膿盆を用意するといったこともあります。
ただし、、、
アナログであるがゆえにユニット全体の構造がシンプルになっているので、逆にそれがメンテナンス性の良さを生んでいるということも言えます。
ハンドピース類を置いておくホルダーについて、デイジーにはセンサーが付いています。
ハンドピースやスケーラーがホルダーにセットされていることを感知することができるため、誤ってフットスイッチを踏んだとしてもホルダーにセットされたハンドピースやスケーラーが作動することはありません。
排水タンクの満水を感知するセンサーは電気的に感知される仕組みです。
排水タンクの蓋の裏側には、このように満水を感知するセンサーが付いていて、たまった汚水がこのセンサーに触れるとバキュームの作動を停止する仕組みです(タンク横についているインジケーターも点滅します)。
かれんと異なり、満水になればすぐにバキュームへの給電が遮断されて作動が停止する(もちろん作動音も止まります)のですぐに分かります。
この電気的に制御されるセンサーの仕組みはかれんにはないデイジーの大きな特徴のひとつで、実際とても便利です。
ただ、電気的な仕組みを用いていることで重量であったり、形状のシンプルさ(メンテナンス性)であったりということを犠牲にしている印象があり、そこと引き換えなのかなといった気もします。
取り回し(訪問先での使い勝手)
取り回し(訪問先での使い勝手)についても両者でそれぞれ特徴があります。
セットアップと片付け
セットアップは前面カバーを開いてロックし、器具がセットされているホルダーを開いた前面カバーの上部へ移すだけなので非常に楽で早いです。
電源コードも1本だけなのでストレスがないです。
位置の移動がややしづらいです。
訪問先で使用できるようセッティングを行った状態で、患者さまの状況に合わせてユニット本体の位置を移動したりすることもあると思います。
セッティングを行った状態では、本体上面の持ち手は使うことができないため、本体両側に付いている取っ手を両手で持ってよっこいしょと移動しなければなりません。
大した手間ではないですが、デイジーに比べると多少動かすのが面倒です。
電源コードが長めです。
非常に地味な視点なのですが、電源コードの長さが2.5mほどでちょうどいい長さだと感じます。
この長さだと、ほぼどの訪問先でも延長コードなしで事足ります。
絶対必要だろうと当初用意した延長コードは、結局1度も使ったことがありません。
コードが2本のデイジーに対して、1本なのも面倒がなくていいです。
ちなみにかれんはオプションで充電式にすることも可能です。
充電式であれば電源コード自体必要なくなりますが、多少パワーが落ちるとのことです。
ハンドピース類を置いておくホルダーの位置が低いです。
器具を取りづらいと感じるほどでもないですが、人によっては取りづらいと感じるかもしれませんし、先生は頻繁に器具を持ち替えるので多少つらいかもしれません。
私は身長177cmですが、腰よりも少し低い位置です。
セットアップと片付け。
短い時間でセットアップすることができますが、上下ユニットにわかれていてカバーや電源コードも2つづつあるのでかれんよりは若干手間です。
片付けも、ハンドピース類のコードやバキュームのホースの収納に慣れが必要ですし、上下カバーをはめるのも所定の位置に合わせる必要があるので慣れが必要です。
位置の移動がしやすいです。
デイジーはセットアップした状態でも持ち手を持って移動できるので、患者さまの状況に合わせてユニット本体の位置を移動したりするのも片手でパッとできます。
患者さまの状況に合わせてユニットの位置を微調整することは多いので助かります。
上部ユニットと、下部ユニット(バキューム部)に分割して使用することができます。
これはデイジー最大の特徴かもしれません。
たとえばベッドで寝たままの患者さまにデイジーを使用する場合などは、ベッドの両サイドに上部ユニットと下部ユニットをそれぞれ置いて使うことができます。
下部ユニット(バキューム)はかなり軽いので、バキュームホースの長さが足りないときなどは椅子や台などに載せて使うことも可能です。
便利に使える場面は少なくないと思います。
上部と下部に分かれているため、電源コードは2つ必要です。
かれんに比べて少し短く、2mほどです(デイジー2の長さは不明)。
微妙に短く、コードも2つなので常に延長コードを使用する必要があり、地味に面倒です。
ハンドピース類を置いておくホルダーの位置が高く、ある程度の調整も可能です。
上部ユニット、下部ユニットともにホルダーを2本のステー(棒)をつないで支える仕組みのため、位置を高くできます。
高すぎる場合にはステー(棒)を1本省けば低くすることも可能です。
上部ユニットと下部ユニットを分割しない場合なら、ホルダーは177cmの私の腰のベルトくらいの位置にきます。
堅牢性(耐久性)
私は長年かれんを使っているわけではないので、堅牢性についてはそれほど多くを語れないですが、今のところ信頼性は高いように思います。
ただ、2点壊れやすい箇所があります。
かれんは本体前扉を開いてセットアップしますが、開いた前扉が前に倒れてこないようにロックするためのこの青い部品。
プラスチック製なのですが、これが非常に弱いです。
yui の提携医院のかれんも、このように折れてしまいました。
大して強い力をかけていないのにもかかわらず、簡単にポキッと折れてしまいました。
ここは改善してほしいところですが、導入時にこの部品は弱い旨の注意喚起もあったので、メーカーさんも認識はしていると思います。
もう1点は、バキュームのホースです。
ホースを強く曲げたりするような使い方はしていなかったのですが、1年経たないうちにこのように破損してしまいました。
デイジーも、使用しているとホースに亀裂が入ることはあるのですが、デイジーのホース内径は繊維材で補強されているため亀裂からすぐ破断につながることがありません。
かれんのホースは補強されていないので、亀裂が入ってしまうとこの写真のようにすぐ破断してしまいます。
バキュームの使用頻度は高いうえ、ひとたびホースが破断してしまうとユニットが使えなくなるので(ガムテープなどで応急処置すればなんとか使えますが)、ホースについてはぜひとも改善いただきたい点です。
デイジーの耐久性には注文を付けたくなる箇所がいくつかあります。
特に気になるのが本体カバーなどの破損です。
これは上部ユニットのカバー裏側の写真ですが、ねじ受けの樹脂部分が折れて黒い部分が外れかけていますが、これはおそらくデイジーあるあるです。
ここに限らず、カバーや本体の樹脂部分の薄い箇所は非常に弱く、割れてしまうことが多いです。
さらに、たまにいつの間にか外れてしまった謎のネジが見つかることがあります。どこに締めてあったネジか、よく見てみればいいのでしょうが、ざっと見ても分からず支障もないようなのでそのままにしておいたりしますがやや不安です。
使い方が荒いのかもしれませんが、こういった破損はデイジーを使う知り合いの先生からも聞くので、このあたりの耐久性については改善の余地がありそうです。
他にも、フットスイッチの接触不良、バキュームの異音(内部防振ゴムの劣化)、満水センサーの電線の断線など。
ただ、フットスイッチやバキュームはデイジー2では改善されているような気もしますし(不明)、満水センサーの電線は以前はむき出しの仕様でしたがデイジー2では改善されています。
そもそも私はデイジーを使用してきた期間が長く、訪問歯科をしている旧知の先生もデイジーを使っている先生が多いので、そういう不具合を見聞きする機会が多いというのもあると思います。
その他
バキュームやハンドピースのパワー。
バキュームは私も使用しますが、正直かれんとデイジーで違いは感じません。
どちらも問題なく吸引してくれます。周りの先生やスタッフで両方使ったことがある方に聞いても同じような意見です。
ハンドピース(5倍速コントラ)についても、かれんとデイジー両方使ったことのある先生に聞いても違いは感じないとのことですので大きな差はないのかなという気がします。
給水タンク
かれんは本体に固定されていますが、ヒンジで手前に引き寄せて脱着できるようになっています。
デイジーは本体とは給水ホースで繋がれています。
かれんのヒンジは旧機種からの改善点のひとつであるようですが、水を補充するための脱着は本体に固定されていないデイジーの方がしやすいです。
ちなみに給水タンクの容量はかれんが300mlで、デイジーが400mlです。
個人的には
総合的に見て、私としてはかれんに軍配を上げます。
軽さや構造のシンプルさからくるメンテナンス性の良さは秀逸です。
ですが、処置やスケーリングの頻度、スタッフの人数や男女比、1日の訪問先の件数といった医院の訪問歯科の状況によっても変わってくると思います。