訪問歯科における訪問スケジュール管理の重要性
目次
なぜ訪問スケジュールの管理が重要なのか
訪問歯科において、訪問スケジュールの管理が非常に重要になります。
なぜ、「スケジュール管理」が訪問歯科において重要なのか。
手間で面倒だから?
もちろん、それも大きな理由です。
しかしそれ以上に大きな理由があります。
端的に言えば、
「機会損失が生じるから」
ここがもっとも大きな理由だと考えています。
訪問スケジュールをいかに適切に効率よく管理するかという課題は医院の経営面にも少なからず影響を与える因子だと思います。
効率のいいスケジュールを組むことがなぜ難しいか
まずおことわりしておきたいのは、
「効率的にスケジュールを組む」というタスクに関して言うと、施設の訪問を軸に訪問歯科を展開している歯科医院にとってはそこまで大きな課題とはならないと思います。
1日の訪問先が施設数件で完結するような訪問の場合であれば、毎週決まった時間に決まった施設に訪問するというケースも多いでしょうし、そういった場合のスケジュール策定にさして苦労はないはずだからです。
ここでお話ししたいのは、1日に回る訪問先が多い訪問歯科について。
そう、在宅の訪問先が多い訪問歯科のことについてなのです。
在宅を軸に訪問歯科を展開したい医院、あるいは在宅を今よりもう少し増やしたいと考える医院であればスケジュールの問題は将来必ず大きな課題となってくるはずです。
在宅が多いということは必然的に1日に回る訪問先の件数も増えます。
しかも患家の場所はさまざま。
さらに在宅の患者さまはデイなどの通所系サービスを利用されている方も多く在宅していない時間もあったり、在宅している日でも訪問系サービスを利用されたりしていて施設に比べて訪問日時に制限があるケースが多いのです。
つまり、それだけ相手先の都合と患家の場所を踏まえて多くの訪問先をスケジュールに組み入れる必要があります。
「パズルのようだ」と、私はよく表現します。
在宅が多ければ多いほどスケジュール調整のハードルは上がり、効率的な訪問スケジュール組むことが非常に難しくなるのです。
アナログな手法でどこまで乗り切れるのか?
私が訪問歯科の仕事を始めた頃、当時携わっていた歯科医院では訪問スケジュールをエクセルで管理していました。
このようなイメージです。
このような帳票に直接テキストを入力していたので、ほぼアナログの管理です。
机の前には壁に貼られた地図、手元には患者さんや訪問先の情報。それらとにらめっこしながら1日の訪問先を入力していくのです。
思いだしたら泣けてきました笑
ある程度想像はつくと思いますが、これの何が大変かというと、、、
訪問先から訪問先までの所要時間は地図を見てなんとなく見積もらなければならない。
把握すべき患者さんや訪問先の都合情報(訪問できない日時)の確認はいちいちそれぞれのカルテなどを見なければならない。
スケジュールを組んでいくとき、訪問先の順番を入れ替えながら適切なスケジュールを模索しますが、その帳票上での入れ替えは常にコピペです(一度策定した予定を組み直すようなときは地獄です)。
そのためスケジュールを組むのに手間と時間がかかります。
さらに、次回の診療日が少し先になるような場合や、入院などで休止の方はいったんこの予定表から除外しなければならないので、次の診療日が来たら再度入力しないといけないし、何より次の診療日を忘れてスケジュールへの組み忘れが発生してしまう(よくありました)。
現在、yui のかかわる訪問歯科では在宅が主軸です。
そのため1日の訪問件数は10件を超える日もよくあります。
それだけの訪問件数だとスケジュール策定にかかる負担は重いため、このようなアナログな手法ではとてもじゃないですが業務をこなせないと感じます。
施設の方が多いスケジュールの合間に在宅が入る程度であれば問題はないのかもしれませんが、在宅の件数が施設の件数を超えてくるようになれば、スケジュール管理のシステムなどに頼らないと苦しいでしょう。
「アナログな手法でどこまで乗り切れるのか?」という問いにはそれが答えとなるかもしれません。
ですが、
「在宅を増やしていく」ということを医院の方針として打ち出した段階で、スケジュール管理を効率的に処理できるインフラは絶対に整えておいた方がいいです。
なぜなら、
在宅が増えれば必ずスケジュール管理の課題にはぶつかるはずだということに加えて、
在宅の訪問先がコンスタントに獲得できるようになったあとですでにルーティーン化していて馴染んだ業務のやり方を、スケジュール管理の問題が顕在化した段階で変えるのはとても大変だからです。
スケジュール管理にまつわる様々な不都合
スケジュール策定に時間がかかる
スケジュールの策定は訪問先が多いとかなりの負担です。
前述したように、相手先の都合と患家の場所を踏まえて多くの訪問先をスケジュールに組み入れること。まずそこが大変です。
そして苦労してスケジュールを組んでも再度組み直さないといけないようなこともあります。
たとえばです、策定したスケジュールの訪問順に各訪問先に予定日時を連絡していくと「その時間は都合が悪いんです」と言われてしまう訪問先に当たることがあったりします。控えめに言ってこれは泣きます。
そのあとのすべての訪問先を前倒しして組み直せればいいのですが、前倒しすると都合に抵触してしまう訪問先があれば前倒しできません。そうなると、訪問途中で待機時間ができてしまうのを許容するか、またはスケジュールを大幅に組み直すかになるのです(私の場合は、スタッフの貴重な時間を無駄にするという選択はないのでこういった場合はほぼ組み直すことになります)。
スケジュールを組んで予定日時を連絡して終わりという単純なプロセスに思われがちですが、なかなか単純にはいかないことも多く、時間や労力を費やすタスクなのです。
予定日時を連絡する手間
これは私がずっと感じていることですが、
訪問歯科運営において、スムーズな業務を滞らせるボトルネックは「電話」だと思うのです。
予定日時の連絡もその一部。
電話して応答いただければいいのですが、そうではないことも多く、そうなると停滞するタスクがひとつ生じる。
積み重なればタスクはどんどん渋滞してしまうことになります。
ですので、電話以外のメールやFAXなどの連絡手段も活用する必要がありますが、それでもメールだと文面を入力したり、FAXだと送信票を印刷して機器で送信するといった手間も伴います。
これらの手間も業務を圧迫するのです。
無駄が多いルートになってしまう
スケジュールを組むスタッフの能力に依存してしまうと、地図を読むことが苦手な人であればルートをうまく選択できなかったり訪問先間の距離や所要時間を適切に把握できなかったりして、どうしても無駄が多い訪問ルートになってしまうこともあると思います。
特に女性は男性に比べて地図の読解力が不得手な方が多いので、女性が圧倒的に多い職場である歯科医院ではそういったケースは多く見られるかもしれません。
また、患者さまのご都合を尊重することは大事ですが、尊重しすぎてしまうと効率のいいルートを組めず、あっちへ行ってはこっちへ戻りといった走行距離ばかり無駄に延びるルートになることもしばしばです。
組んだ予定の通りにいかない
訪問先間の距離や所要時間、診療の所要時間を正確に読み切れなかったりして、実際には移動や診療に予定以上に時間がかかってしまうといったこともあるでしょう。
それだけならまだいいですが、予定より遅れたことで(あるいは早まったことで)訪問先の都合の悪い時間に重なってしまい、コンビニなどで待機せざるを得なくなるようなこともあったりします。
こうなるとその待機時間も大きな無駄になってしまいます。
日によって訪問件数のばらつきが出る
訪問歯科では、新規の患者さまもいれば診療が終了する患者さまがいます。
毎週診療がある方もいれば、間隔をあけておうかがいする方もいます。
そうなると、この曜日は件数が多いのにこの曜日は少ない。とか、
この週は件数が多いのに、翌週は激減するといったことも起こります。
この日は遅くまで残業だったのに、この日は定時までする仕事がないといったことも起こってしまうわけで、それも問題だと思います。
適切なリコール管理ができない
人の記憶やアナログな管理に頼る方法だと、各患者さまの診療予定やリコールの十分な管理ができず、スケジュールへの組み忘れが発生してしまいます。
これらの不都合がもたらす不利益
非効率なスケジュールでは必要以上に訪問診療の時間がかかります。
診療に時間を取られる分にはまだいいのですが、移動に時間を取られるのは無駄でしかありません。
読みの甘さから生じてしまう道中の待機時間もそうです。
時間はすなわちチーム内のスタッフ全員の貴重な時間です。
つまりは、
本来なら早く帰院できて必要な仕事をできた時間を失う(生産性の損失)
早く帰宅することで本来得られるはずだったプライベートな時間を失う(従業員満足度の損失)
本来なら不要だったはずの余計な残業代が生じる(医院の利益損失)
時間だけではありません。
効率の悪いスケジュールでは、同じような時間のなかで訪問できる件数も減ってしまうはずです。
つまりは、
本来なら回れていたはずの訪問先が回れない(医院の利益損失)
そのため診療を待つ他の患者さまを必要以上にお待たせしてしまう(顧客満足度の損失)
さらには、移動時間が増えることで車の走行距離が無駄に延びます。
つまりは、
本来なら不要であった余計なガソリン代や高速代、メンテナンス費用がかかる(医院の利益損失)
そして、属人的でアナログな診療予定管理やリコール管理でスケジュールへの組み忘れが発生します。
そのまま訪問することなく忘れ去られてしまったり、あるいは「次の受診日の連絡がないんですが!」と、患者さまからお叱りをいただくようなことはあってはなりません。
つまりは、
本来なら失わずに済んだ患者さまからの信頼を失う(顧客満足度の損失)
本来得られるはずだったはずの診療数を失う(医院の利益損失)
これらはすべて、本来なら得られるはずだったものを得られない「機会損失」なのです
スケジュール管理という課題について、単に「面倒だな」とか「移動が長いよね」といった表面上のことにだけ目を向けるのではなく、この「機会損失」の視点にフォーカスすることが重要です。
スケジュール策定の手間から、非効率を許容して予定を組むこともあると思いますが、訪問スケジュールの非効率はこのような機会損失のデメリットが非常に大きいと私は考えています。
スケジュール管理について最大限の努力をすることは経営上も大きな意味があることなのです。
効率的なスケジュール管理に必要なこと
ご都合の十分なヒアリング
診療予定日時の連絡を入れると「その時間は都合が悪いんです」と断られる。これを避けるためには、ご都合について事前に十分ヒアリングしておくことが大切です。
何曜日でも何時でもかまいませんという方もいらっしゃいますが、ご自宅で介護を受けられている方は、色々なサービスなどが詰まっていたり介護されているご家族さまにも予定があったりで、おうかがいできるタイミングが少ないこともよくあります。
そういった方についてはおうかがいできるタイミングという選択肢を少しでも多く得られるように詳細にご都合をおうかがいしておいたほうがいいです。
患者さまによっては、歯医者が医院からご自身のお宅へ訪問して医院へ戻るものだと思われているような方もいらっしゃいます。
私の場合ですが、初診の患者さまには、たくさんの訪問先を順に回るので他の訪問先との兼ね合いもあることを伝え、「おうかがいしてもいい日時」ではなく、「都合の悪い日時」をお聞きし、その日時を避けて訪問日を調整するようにしています。
その方が選択肢を多く持てるからです。
さらに、患者さまによっては「午後はダメ」とか、「午前はダメ」とかざっくりおっしゃられる場合もありますが、突っ込んでおうかがいすると午後の〇時から〇時だけがダメだったということもよくあるので、しっかりお聞きすることが大切です。
ご家族さまは、家族の立会いは絶対必要だと思っていらっしゃることも多いです。
もちろんご家族に立会いいただいたほうがいい場合もありますが、そうなるとご家族に立会いいただく場合に、ご家族の都合で訪問日時が限られてしまうこともあります。
患者さまご本人が比較的しっかりされているような場合で必ずしも立会いが要らないような場合には必ずしも立会いは必要でないことをお伝えして差し上げるとスケジュールは組みやすくなります。
視野を広く
視野を広く。つまりは、先を見てスケジュールを組もうということです。
訪問日ごとの件数のバランスを取ることも大切です。また、先を見ずになんとなく訪問先を詰め込んでしまうと、翌週のスケジュールに組み入れることのできる訪問先が訪問できる日時に制限の多い方ばかりだったということになり、策定に苦労してしまいます。
特に、「必ずしもこの日に訪問しなくてもいい訪問先」を今週組み入れるのか翌週組み入れるのかは、先のスケジュールも想像しながら策定することでバランスよく予定が組めるのです。
調整弁を持つ
ごめんなさい、少し乱暴な表現になってしまいますが、、、
「必ずしも特定の日に訪問しなくてもいい訪問先」、つまりメンテナンスの患者さまなどでおおむね月1回や数か月に1度の訪問の患者さまを多く持っておくことはスケジュール管理の調整弁となり、かなり助かります。
組み入れられる訪問先が少ない日にそういった訪問先を組み入れたり、訪問先の都合に沿うことで訪問先から訪問先の間に待機時間ができてしまうような場合にも、その空いた時間にうまくはめ込めたりするのです。
治療がひと段落しても定期的なメンテナンスの勧奨は必ず実施していきたいところです。
継続した処置が必要な方でも、毎週の訪問でなくてもいいような場合は必ず毎週訪問するような形にせずにその都度連絡して訪問日をお伝えしたほうがスケジュールを組む上では楽です。
とにかく、何日に必ず訪問という縛りがある訪問先が少ない方がより柔軟に予定を組めるわけです。
デジタルの活用
少なくとも在宅を増やしたいと考えている医院には、訪問スケジュールを効率的に管理するシステムは絶対的に必要だと思います。
弊社が提供している 訪問歯科総合支援ツール HomeClinic でも訪問スケジュールの管理機能を実装しています。ここで書いた課題「機会損失」を最小化しようという試みから開発が始まったシステムですので、よかったら一度リンク先をご覧ください。
そういったシステムを導入していない医院でも、GoogleMap はぜひ色んな機能を使ってください。
GoogleMap がない時代から訪問歯科に携わってきた私に言わせれば、GoogleMap の出現は本当に革命でした。
昔は地図を片手に訪問し、いざ訪問先の近くに来たがさっぱり患家の場所がわからず無駄に時間を使うといったことが少なくなかったですが、今では GoogleMap で事前に調べてストリートビューでルートの雰囲気や患家の形や色などを予習するといったことができるので道に迷うということがほぼなくなりました。
さらに大きなメリットは訪問先間の距離や所要時間も確認できること。
訪問歯科総合支援ツール HomeClinic では GoogleMap と連携していますが、訪問先間の距離や所要時間を逐一確認しながらスケジュールを策定できるので本当に便利です。
スマートフォンでナビ機能も利用でき、事前に1日の訪問先をすべて経由地と目的地に設定しておけば、車載ナビのように現場でいちいち目的地を設定する必要もありません。
スケジュールとは少し離れますが、GoogleMap では2点間の直線距離を測定できるので、受診依頼があった際に患家が対象範囲内かを判断するのにも役立ちます。
訪問日を増やす
訪問を始めて間もない医院では、訪問に出る曜日が少ないかもしれません。
訪問日が少なければその限られた稼働日にすべての訪問先を組み入れる必要があるので、必然的にスケジュールの効率は悪くなり移動距離も長くなります。
ですが、訪問日が増えてくると稼働日が分散されることで訪問先を地域ごとにうまく振り分けでき、効率が上がってくるのを必ず実感できるはずです。
徐々に固まったエリアでだけ移動できるようになってきて、1日の走行距離も少なくなってきます。
訪問診療が軌道に乗れば乗るほどスケジュールの効率は確実に上がるのです。
訪問対象範囲についての考え方 | 往診の作法。
ご存じの通り、訪問歯科診療の対象範囲は半径16キロと定められています。ですが、歯科医院によっては独自に対象範囲を決めて(半径16キロより狭い範囲を対象として)訪…
スケジュール策定のタイミング
私は場合は訪問日の2、3日前にスケジュールを策定して訪問先に日時を連絡するようにしています。
もう少し早くお知らせして差し上げる方が患者さまにとってはいいのかなとも思うのですが、早めにスケジュールを固めてしまうとその後に新患の依頼があったり予定していた方が入院になってしまったりということがあり、予定を組み直さないといけなくなる場合があるので今はこのタイミングでスケジュールを策定しています。